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千年後の学校

· 約7分
Yachiko Obara
共同代表 @ ポリマスリサーチ
Hiroki Obara
共同代表 @ ポリマスリサーチ

我々ポリマスリサーチが設計したエレメンタリーは、モンテッソーリ教育における6-12歳フェーズのエレメンタリープログラム(小学校課程)の理論をベースにしている1。そこをベースに、ヒトの発達にとっての物理条件を割り出し、「学校」を宇宙的な構造となるように調整した結果、現在の社会常識的なスタイルとは大きく異なるスタイルとなった。

モバイルなシティスクール

例えば、我々は「学校」を固定的なものと捉えていない。我々のエレメンタリーは「モバイル」であり、「動く学校」である。個人も集団も常に移動可能であることを核として設計した。モンテッソーリエレメンタリーで「Going out(ゴーイングアウト)」と呼ばれる、街中を移動可能な状態を全活動に拡大して適用している。考える動物である私たち人類にとって、移動の自由は欠かせない。

「決まった時間に決まった場所に毎日通う」スタイルは、モンテッソーリエレメンタリーを含むほぼすべての教育スタイルに採用されているが、我々のエレメンタリーでは採用していない。代わりに、「どの時間にどの場所に行くかを自分で決める」スタイルを採用した。それは、どこまでも移動可能で相対的かつ非同時的な宇宙の実体に合わせたものである。社会的であることよりも、宇宙的であることを優先しているため、(これは本来おかしいことなのだが、)このスタイルを不都合に感じる人は少なくないと思われる。

未来的なものは少数の人々の熱から始まる

未来的なものにはすべて共通だが、現在の社会の要請を必ずしも反映していない点は考慮済みである。どんなに普及するものでも、必ず少数の人々の熱から始まる。未来的なものの宿命として、それを真に必要とする一部の人々の救済から始まるため、現在の社会の大多数のニーズには応えられない。

この点については、時代の進展とともに社会自体が変化するため、自然解決される問題と捉えているが、未来を先取りするような形で、親の働き方問題に対する超自然的解決策を合わせて用意したいと考えている。

自由の徹底

我々のエレメンタリーでは自由を徹底している。「モバイル性」により、在学生の多種多様なニーズに対応できることに加え、災害などの非常時にも問題なく対応できるスタイルになっている。初めから緊急時を含む全方向を想定しているため、震災にも疫病にも柔軟に対応できる頑強性を有する。嫌なことを嫌々やる必要はない。ひたすら何かに耐えるような時間の使い方をして貴重な人生を浪費する必要もない。周りの人と好きなだけ自由に話していいし、どこでも歩き回っていいし、トイレはいつでも許可なく自由に行っていい。岩手、東北、日本、世界のどこに行っても自由である。月や火星に行っても問題ない。

「活動内容は自分で決める」「異年齢混合チームで活動」「より少なく学び、より多く発見する」「自然からのみ洞察を得る」「手で考える」「生活の中の実際の問題を解決する」「リソースに依存しない」(教科書なし、授業なし、テストなし、宿題なし、成績表なし)など、他にも我々のエレメンタリー設計の「非常識」な特徴は多々あるが、それはプロジェクトの進捗とともに徐々に明らかになるかと思う。

意志力と優しさによる構造

このエレメンタリーの構造は、参加者であるこどもたちの「意志力」と「優しさ」で自然と調整される2。個人としても集団としても、自己組織化によって秩序を獲得できる。大人が権力を剥き出しにしなくても、自発的に利他的な振る舞いをするようになる。それは優等生的な高評価を得るための見せかけの態度ではなく、全人格の発達過程として表出してくる特徴である。この構造の中でこどもたちは、本来備わっている生命の完全性を発揮する。

「そんなに上手くいくのか」と疑問に感じる方も多いと思うが、この構造は、宇宙が採用している構造と同じものである。原子核も細胞も人体も惑星も恒星系も銀河もすべてこの構造である。その意味で、おそらく我々のエレメンタリーは千年後の学校と同じ構造を採用している、といえる。一億年後でも百億年後でも多分同じである。月でも火星でもアンドロメダ銀河のどこかの惑星でも、そこにある最も宇宙的な学校は多分、我々と同じ構造を採用する。

宇宙船でも運営可能な学校形態

我々のエレメンタリーのスタイルならば、地球から火星に向かう宇宙船の中でも退屈しないし、学習指導要領と教科書の新しいバージョンを毎年送信しなくていい。宿題のプリントを印刷するためのプリンターも紙もインクも不要。「マルツケ」の仕事も不要になる。できる限り、荷物を減らし軽量化しなければならない環境でも実施可能な構造である3

このスタイルは、宇宙を理解するために必然的なスタイルである。宇宙は動的であり、静的な状態では理解できない。感覚と運動から直観的に理解する能力(=発見する能力)を使わないのは、目隠しして光を見ようとするようなもの、耳を塞いで音を聴こうとするようなもの、口の中に入れずに味を当てようとするようなものである。紙とペンを使うのは、図にしたり、計算したり、文章で表現するときだけでいい。他人の考えに染まろうとするのではなく、自分の考えを進化させるためにも、感覚と運動を最大限活用することが必要不可欠である。

6-12歳の生育環境の必要十分性

また、このスタイルは、6-12歳のヒトのこどもたちの生育環境の必要十分性を満たす。このフェーズのこどもたちの発達ニーズを過不足なく満たすには、このスタイルでなければならない。この年齢層のこどもたちを自由にしたときに多くの人が自然に求める体験がニーズを表している。

「Minecraftが好きなのはなぜか?」を考えずにマイクラで遊べることを売りにしていないだろうか。「ポケモン」「スプラトゥーン」「Roblox」に夢中になるのはなぜか? ゲームやアニメはどんな世界を仮想体験させているのか? 多くの大人がかつて持っていて知らず知らずのうちに封印してしまった欲求を満たすために、こどもたちは想像の世界に飛び立つ。その欲求こそがまさしく発達におけるニーズであり、次の発達段階に進むために満たす必要のあるものである。たとえ代償的であったとしても、こどもたちは自分で自分に必要なものを用意しようとしているのだ。

リコールレベルで不登校率が上昇しているのはなぜだろう? いつも誰かが誰かにいじわるしているのはなぜだろう? 「本当は行きたくない」と思いながら通っている子の多さは不登校率には反映されていない。千年後や宇宙の彼方にも「学校」という概念があるかどうかの議論は別途必要だが、何と呼ぶかは別として、既存の生育スタイルよりも我々の生育スタイルのほうが宇宙的にはスタンダードであると断言できる。このスタイルに移行すれば、小学校におけるほぼすべての教育問題は自然に解決する。


Footnotes

  1. 例えば、ポリマスリサーチ独自の活動である「コズミック・スタディ(宇宙探究活動)」は、モンテッソーリエレメンタリーの「コズミック・エデュケーション(宇宙教育)」をベースに、より本格的に発展させたものである。地球や生命、言語や数の探究活動においても同様に、ポリマスリサーチ独自の研究を基に発展させている。

  2. ポリマスリサーチでは、この構造が最も重要であると考えている。構造が宇宙的でなければ、学校は宇宙的にならない。

  3. ポリマスリサーチでは、南極大陸や火星などの極地環境でも使えるテクノロジーとして学校設計を試みている。