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核分裂と核融合

· 約7分
Yachiko Obara
共同代表 @ ポリマスリサーチ
Hiroki Obara
共同代表 @ ポリマスリサーチ

恒星からの放射エネルギー贈与に全面的に依存している現状から見れば、地球上でのエネルギーの取り出し方として、植物の光合成以上に優れた方法はない1。この最も優れた方法に取って代わる方法として、2つの方法を私たち人類は物理学から発見し、現在進行形で実証実験している。

核分裂による膨大なエネルギー

そのひとつが核分裂である。核分裂とは原子核を破壊し、その放射エネルギーを変換して使う方法である。重い原子核を壊して軽い原子核に変換するときに放出されるエネルギーを使う。原子に秘められた力を使うから「原子力」と呼ばれている。

核分裂反応を使う問題は、制御が難しいことである。宇宙にはエントロピー増大則があるため、クォークが秩序立ったものである原子核を崩壊させることは宇宙的に見れば「イージー」である。整頓された部屋を散らかすように、原子核を崩壊させることで原子に秘められた莫大なエネルギーを取り出せる魔法のような方法が見つかったのは1938年12月のこと2

部屋を散らかすこどものように、素粒子物理学者たちはこぞって高エネルギー加速器で原子核を散らかしている。その後、1945年8月に「世界に秩序をもたらす」ために原子爆弾として応用されることとなる3。その後も「世界に秩序をもたらす」道具としての核兵器の開発競争が世界各国で繰り広げられている4

原子は私たちを構成する部品の部品

散らかした部屋を放っておいても元の状態には戻らないように、分裂した原子核は元に戻らない。崩壊した原子核を構成していた「部品」は、飛び散って他の原子核を構成するまで漂い続ける。そして、他の原子核にぶつかり、崩壊させる。崩壊の連鎖が起こる。

ビリヤードの玉のように、他の玉にぶつかって動かす。その玉は無生物にも生物にも使われている「部品」の「部品」であるから、例えば、DNAを構成するヌクレオチドを構成する炭素や水素や酸素や窒素やリンが壊れたりする。部品が少々壊れても大丈夫なように自然は分子構造を作っているが、何事にも限度があるように、一定以上に壊れると原子は機能を変え、分子も機能を変えてしまう。

その機能の変化は高次元に向かって連鎖し、傷がついて読み込めなくなったディスクのように、DNAは情報を失う。傷が付いた場所で止まる映画のように、DNAの情報再生機械である生物の生命現象は異常をきたし、止まる。そして、生命体を構成していた部品は分解され、また別の何かを構成するために宇宙を彷徨う。

核分裂でエネルギーを賄うということは、すべて原子で組み立てられ、原子を必須のものとしている生命圏において、寒い真冬に暖をとるために自分たちの家や自分たちの身体を燃やすようなものである。核を分裂させた原子は原子の機能を失う。新しい生命を生み出すために欠かせない原子ストックが減ることを意味する。宇宙はこのようなハイリスクかつ破滅的で、非効率かつ不合理な方法をエネルギーシステム運営法として採用していない。

核融合による膨大なエネルギー

私たち人類が見つけたエネルギーの取り出し方のもうひとつの方法が核融合である。これは宇宙が恒星系を運営するのに採用している方法である。

核融合エネルギー発生装置である恒星太陽では、重力によって軽い元素から重い元素を合成している。高温・高圧によって、軽い原子核から重い原子核を生成する。宇宙で最も軽い水素4個から、宇宙で2番目に軽いヘリウム1個を生成するときに放出される高密度のエネルギーがエントロピー的に放射されたものを恒星系惑星は受け取って使っている。プロトン(水素原子核)を融合させるプロトン-プロトン連鎖反応によって、恒星系は稼働している。

現在の地球文明社会が実験中の方法は、海水から得られる水素(重水素と三重水素)を使うやり方である。核融合反応でも核融合時に飛び出た中性子によって放射線は出るが、核分裂ほどのカオスさはないため、制御は比較的容易であると考えられている。

原子核の質量差からエネルギーを取り出す仕組み

いずれにせよ、原子核の質量差からエネルギーを取り出す仕組みが永遠であることはアインシュタインのE=mc^2の発見によって保証されている。核分裂も核融合も反応前後の質量差がエネルギーに変換されている。しかし、そのベクトルが異なる。結合から分裂に向かうエントロピー的な方法よりも、分裂から結合に向かう反エントロピー的な方法のほうが効率がよい。

宇宙では、核分裂反応は超新星爆発や中性子星合体、宇宙線に誘発されたときなどにしか起きない。つまり、核融合とは異なり、核分裂は自然に進行しない。宇宙の中で最も豊富な水素と、2番目に豊富なヘリウムを使う核融合とは異なり、核分裂の燃料(ウランやプルトニウムなどの重い元素)は、宇宙に比較的少量しか存在しない。核分裂によるエネルギー発生は反宇宙的なのだ。

宇宙の協力主義を理解する

恒星は水素4個をヘリウム1個に変換し、ヘリウム3個を炭素1個に変換する装置である。こうして、軽い元素から重い元素に変換していく恒星はその中心に重い元素を貯めている。その過程で放出されるエネルギーを恒星系惑星は光と熱で受け取っている。太陽フレアなどの副産物は地磁気シールドで弾きながら、地球は生命を維持している。

恒星内に貯まっていく重元素は、やがて超新星爆発で宇宙に拡散されることになる「星の源」である。地球内部にある重い元素は宇宙の中で悠久の時を経て凝縮された貴重な結晶なのである。それを壊してエネルギーを取り出すコストはどの尺度で見ても全くリーズナブルではない5

地球を舞台に人工的に超新星爆発を起こしたい人はいないはずだ。核分裂を使うテクノロジーは結果的に破滅しかもたらさない。宇宙は協力主義を採用しているのだ。

私たちの生命を含む全構成物の背後にある宇宙的な仕組みとして「核分裂」と「核融合」の役割の理解は必須である。我々ポリマスリサーチのエレメンタリーのこどもたちは、核物理学の理解を通して、生命の神秘や平和の実現方法を心で感じることができる。コズミック・スタディ(宇宙的探究活動)では、このようなことを発見しながら、宇宙の協力主義の理解を進めていく。


Footnotes

  1. 植物の光合成のエネルギー変換効率は、C3植物(多くの穀物や葉物野菜)で約0.5-2%、C4植物(トウモロコシ、サトウキビなど)で約1-3%。太陽光発電のエネルギー変換効率は単結晶シリコン太陽電池で約15-22%(研究開発が進み、効率は改善途上)であり、植物の光合成よりも優れているように思えるが、植物の光合成による生成物は酸素や食糧など生命維持に必要なものであるから、総合的に見て、光合成以上に優れた方法はない。

  2. 1938年、オットー・ハーンとフリッツ・シュトラスマンらが天然ウランに低速中性子を照射し、反応生成物にバリウムの同位体を発見。この結果をリーゼ・マイトナーとオットー・ロベルト・フリッシュらがウランの核分裂反応であると解釈。fission(核分裂)の語を当てた。

  3. 1945年8月6日ヒロシマ、1945年8月9日ナガサキで使用された。その負の影響は現在でも続いている。

  4. 2024年時点で、世界の核兵器の総数は約12,121発と推定されている。そのうち約9,585発が軍事用にストックされ、潜在的に使用可能な状態にある。残りの核兵器は退役し、解体待ちの状態。
    以下は国別の推定核兵器保有数の概要:
    ロシア:合計5,580発、軍事用ストックには4,380発。
    アメリカ:合計5,044発、軍事用ストックには3,708発。
    フランス:合計290発、全て軍事用ストック。
    中国:合計500発、全て軍事用ストック。
    イギリス:合計225発、全て軍事用ストック。
    パキスタン:合計170発、全て軍事用ストック。
    インド:合計172発、全て軍事用ストック。
    イスラエル:合計90発、全て軍事用ストック。
    北朝鮮:合計50発、全て軍事用ストック。
    これらの数値は推定値であり、正確な数は各国の秘密保持により確定されていない。

  5. 理論的には、地球文明の消費エネルギーは、水力・潮力・波力・風力・地熱・植物が生成するバイオエタノール、メタンガスなどの自然エネルギーで十分賄える。恒星太陽から届く光と熱、惑星地球と衛星月の重力ダンスによって、地球表面上で利用可能な宇宙エネルギーはすでに十分なほど与えられている。