核分裂と核融合
恒星からの放射エネルギー贈 与に全面的に依存している現状から見れば、地球上でのエネルギーの取り出し方として、植物の光合成以上に優れた方法はない1。この最も優れた方法に取って代わる方法として、2つの方法を私たち人類は物理学から発見し、現在進行形で実証実験している。
核分裂による膨大なエネルギー
そのひとつが核分裂である。核分裂とは原子核を破壊し、その放射エネルギーを変換して使う方法である。重い原子核を壊して軽い原子核に変換するときに放出されるエネルギーを使う。原子に秘められた力を使うから「原子力」と呼ばれている。
核分裂反応を使う問題は、制御が難しいことである。宇宙にはエントロピー増大則があるため、クォークが秩序立ったものである原子核を崩壊させることは宇宙的に見れば「イージー」である。整頓された部屋を散らかすように、原子核を崩壊させることで原子に秘められた莫大なエネルギーを取り出せる魔法のような方法が見つかったのは1938年12月のこと2。
部屋を散らかすこどものように、素粒子物理学者たちはこぞって高エネルギー加速器で原子核を散らかしている。その後、1945年8月に「世界に秩序 をもたらす」ために原子爆弾として応用されることとなる3。その後も「世界に秩序をもたらす」道具としての核兵器の開発競争が世界各国で繰り広げられている4。
原子は私たちを構成する部品の部品
散らかした部屋を放っておいても元の状態には戻らないように、分裂した原子核は元に戻らない。崩壊した原子核を構成していた「部品」は、飛び散って他の原子核を構成するまで漂い続ける。そして、他の原子核にぶつかり、崩壊させる。崩壊の連鎖が起こる。
ビリヤードの玉のように、他の玉にぶつかって動かす。その玉は無生物にも生物にも使われている「部品」の「部品」であるから、例えば、DNAを構成するヌクレオチドを構成する炭素や水素や酸素や窒素やリンが壊れたりする。部品が少々壊れても大丈夫なように自然は分子構造を作っているが、何事にも限度があるように、一定以上に壊れると原子は機能を変え、分子も機能を変えてしまう。
その機能の変化は高次元に向かって連鎖し、傷がついて読み込めなくなったディスクのように、DNAは情報を失う。傷が付いた場所で止まる映画のように、DNAの情報再生機 械である生物の生命現象は異常をきたし、止まる。そして、生命体を構成していた部品は分解され、また別の何かを構成するために宇宙を彷徨う。
核分裂でエネルギーを賄うということは、すべて原子で組み立てられ、原子を必須のものとしている生命圏において、寒い真冬に暖をとるために自分たちの家や自分たちの身体を燃やすようなものである。核を分裂させた原子は原子の機能を失う。新しい生命を生み出すために欠かせない原子ストックが減ることを意味する。宇宙はこのようなハイリスクかつ破滅的で、非効率かつ不合理な方法をエネルギーシステム運営法として採用していない。
核融合による膨大なエネルギー
私たち人類が見つけたエネルギーの取り出し方のもうひとつの方法が核融合である。これは宇宙が恒星系を運営するのに採用している方法である。
核融合エネルギー発生装置である恒星太陽では、重力によって軽い元素から重い元素を合成している。高温・高圧によって、軽い原子核から重い原子核を生成する。宇宙で最も軽い水素4個から、宇宙で2番目に軽いヘリウム1個を生成するときに放出される高密度のエネルギーがエントロピー的に放射されたものを恒星系惑星は受け取って使っている。プロトン(水素原子核)を融合させるプロトン-プロトン連鎖反応によって、恒星系は稼働している。
現在の地球文明社会が実験 中の方法は、海水から得られる水素(重水素と三重水素)を使うやり方である。核融合反応でも核融合時に飛び出た中性子によって放射線は出るが、核分裂ほどのカオスさはないため、制御は比較的容易であると考えられている。
原子核の質量差からエネルギーを取り出す仕組み
いずれにせよ、原子核の質量差からエネルギーを取り出す仕組みが永遠であることはアインシュタインのE=mc^2の発見によって保証されている。核分裂も核融合も反応前後の質量差がエネルギーに変換されている。しかし、そのベクトルが異なる。結合から分裂に向かうエントロピー的な方法よりも、分裂から結合に向かう反エントロピー的な方法のほうが効率がよい。
宇宙では、核分裂反応は超新星爆発や中性子星合体、宇宙線に誘発されたときなどにしか起きない。つまり、核融合とは異なり、核分裂は自然に進行しない。宇宙の中で最も豊富な水素と、2番目に豊富なヘリウムを使う核融合とは異なり、核分裂の燃料(ウランやプルトニウムなどの重い元素)は、宇宙に比較的少量しか存在しない。核分裂によるエネルギー発生は反宇宙的なのだ。