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宇宙のはじまり

· 約16分
Yachiko Obara
共同代表 @ ポリマスリサーチ
Hiroki Obara
共同代表 @ ポリマスリサーチ

ここにひとつの種がある。この種を土の中に埋めて、じょうろで水をかけてみよう。すると、種に変化が起こる。その変化は時間を含む幾何学パターンとして、折々の姿を見せる。時系列で順番に挙げていく。

植物のライフサイクル

  • 種は土の中で水を吸収して、外皮が膨らみ始める。内部では化学変化が起きる。ここまで24時間以内に起きる出来事(といわれている)。
  • 種は、内部に貯蔵されているエネルギーを利用して根を伸ばし始める。根はその星の中心に向かって、つまり重力に引き寄せられて伸びていき、土の中の水分や物質化されたエネルギーを吸収する準備を整える。ここまで1-7日以内に起きる出来事(といわれている)。
  • 根が土の中で準備を終えると、今度は茎が宇宙方向、つまり重力とは反対方向に伸び、地表に芽を出す。芽が土の上に出てくると、最初の葉を出し、光合成を始め、成長を始める。ここまで1-2週間以内に起きる出来事(といわれている)。

ここまでの一連の流れが「発芽」と呼ばれる段階である。

  • 最初の芽である子葉が成長すると、本葉が出始める。本葉は子葉よりも大きく、植物それぞれの特徴を示す。この段階で植物はさらに活発に光合成をして、成長を続ける。ここまで2-4週間以内に起きる出来事(といわれている)。
  • 地上部が成長する一方で、地下の根もさらに土の中で広がりを見せる。これにより、植物はより多くの水分と物質化されたエネルギーを吸収することができ、さらに成長を加速させる。ここまで4-6週間以内に起きる出来事(といわれている)。

ここまでの一連の流れが「成長」と呼ばれる段階である。

  • 高さや葉の数が増し、成長のピークに達する。この時点で、花をつける準備をするものもある。ここまで6-8週間以内に起きる出来事(といわれている)。
  • 花が咲くものは、ここでつぼみを形成し、やがて花が咲く。花は受粉を経て、実や種をつけるための準備をする。ここまで8-12週間以内に起きる出来事(といわれている)。

ここまでの一連の流れが「成熟」と呼ばれる段階である。

  • 花が咲いた後、受粉が成功すると、実を結び始める。実が熟すと、中に新しい種が形成される。再び次のサイクルを始める準備が整う。ここまで12週間以降に起きる出来事(といわれている)。

ここまでの一連の流れが「結実」と呼ばれる段階である。

種が発芽し、成長し、成熟し、結実する。そして、次世代の種の一生が始まる。それの種類や環境条件によって、具体的なタイムラインや過程が異なることもあるが、この大きな流れの構造はすべて共通である。

種が種を生む。この無限に続く再帰構造は「植物」のライフサイクルであるが、「宇宙」のライフサイクルと近似している。

植物の双葉

宇宙のライフサイクル

宇宙の誕生から地球の誕生までの発達過程における出来事を時系列で順番に挙げていく。

  • 宇宙が生まれる。この出来事を0秒とする。ビッグバンと呼ばれる。
  • 急激に膨らんだ宇宙は、非常に高温高密度の状態。宇宙の全エネルギーの全エネルギーが極小の領域に詰まっていた。空間、時間、物質の概念が現在の物理法則では説明しきれない状態でもある。宇宙の温度は約10の32乗ケルビン以上。太陽の最も温度の高い中心部は約1500万ケルビンだから、超が32個付くくらい熱かったということ。ここでは、重力、電磁気力、強い力、弱い力のすべての「力」がひとつに統一されていた、らしい。この時期のエネルギー密度は非常に高く、すべての粒子が高エネルギー状態にあった。この時期の光子は非常に高エネルギーであり、現在のガンマ線以上のエネルギーを持っていた可能性がある。しかし、この過程はプランク時代といって、現代物理学(特に一般相対性理論と標準模型)では説明できない。光子を含むすべての粒子が統一された「力」の影響下にあり、その挙動は現在の物理学の法則とは異なる可能性がある。量子重力理論や超弦理論など、新しい理論が考えられているが、完全に説明できている理論はまだ存在しない、とされている。ここまで0秒から約10のマイナス43乗秒(プランク時間)以内に起きる出来事(といわれている)。プランク時代と呼ばれる。
  • まだまだ非常に高温高密度な状態。ひとつの「力」から「重力」だけが分離して独立。重力以外の基本的な力はまだひとつなまま。宇宙の温度は約10の32乗ケルビン程度。物質とエネルギーの分布は非常に均一だった。基本粒子は自由に存在して、「力」の影響を受けていた、らしい。この過程の終わりに、宇宙の温度は急激に低下し始める。「強い力」がひとつの「力」から分離する。「強い力」の分離が起こると、「強い力」がクォークを結びつけてハドロン(プロトンや中性子)を形成し始める。この過程に関する実験的証拠は乏しいため、これらの出来事は仮説で考えられた話。ここまで約10のマイナス43乗秒から約10のマイナス36乗秒以内に起きる出来事(といわれている)。大統一時代と呼ばれる。
  • 指数関数的に急速に膨張。風船が膨らむように、宇宙の大きさは約10の26乗倍に急速に拡大。この急激な膨張により、初期宇宙の温度と密度の揺らぎが均一化された。宇宙の膨張は指数関数的に進んだが、エネルギー密度はほぼ一定に保たれていた。温度もほぼ一定のまま維持されたと考えられている。宇宙の温度は依然として非常に高く、約10の27乗ケルビンから約10の32乗ケルビンの範囲。急速な膨張が終わると、エネルギーが他の粒子に変換され、宇宙が再加熱される。再加熱により、温度は再び非常に高くなったが、急速な膨張前ほど高温には達しなかった。再加熱後の温度は約10の22乗ケルビンから約10の28乗ケルビンの範囲。この再加熱期に、素粒子が形成され、ビッグバンの後の通常の膨張期に移行する。この過程も仮説で考えられた話ではあるが、宇宙背景放射の観測結果によって、実際にこういうことが起きただろうと考えられている。ここまで約10のマイナス36乗秒から約10のマイナス32乗秒以内に起きる出来事(といわれている)。インフレーション時代と呼ばれる。

ここまでの一連の流れが「宇宙の発芽」に相当する段階である1。種子の発芽が完了し、幼苗が確立され、安定した成長段階に入ると、代謝活動は落ち着く。

  • 宇宙の温度は約10の12乗ケルビンから約10の10乗ケルビンに低下する。宇宙はクォークとグルーオンが自由に存在するクォーク-グルーオンプラズマの状態にあった。宇宙の膨張と冷却により、クォークとグルーオンが結合してハドロンを形成し始める。クォークが3つずつ結合してバリオン(例:プロトンと中性子)を形成する。メソン(クォークと反クォークのペア)も形成されるが、バリオンが安定して残る。高温高エネルギー状態において、粒子と反粒子が大量に存在。宇宙が冷却するにつれて、粒子と反粒子が対消滅し、エネルギーに変換される。対消滅の不均衡により、物質がわずかに残り、現在の宇宙を構成する物質の起源となる。ここまで約10のマイナス6乗秒から1秒以内に起きる出来事(といわれている)。ハドロン時代と呼ばれる。
  • 宇宙の温度は約10の10乗ケルビンから約10の9乗ケルビンに低下する。宇宙の冷却が進み、レプトン(電子、ミュー粒子、タウ粒子、ニュートリノ)が支配的な存在になる。レプトンと光子の相互作用が主要な物理過程となる。宇宙が冷却してニュートリノが他の物質とほとんど相互作用しなくなり、ニュートリノは宇宙に自由に漂うようになる。この過程で自由になったニュートリノは、現在も宇宙に残っており、「宇宙ニュートリノ背景」として存在する。ニュートリノの数密度とエネルギーは、宇宙の膨張速度や構造形成に影響を与える。宇宙が冷えるにつれて、電子と陽電子(反電子)の対消滅が進行する。対消滅の過程で大量の光子(ガンマ線)が放出される。宇宙がさらに冷え、約10の9乗ケルビンを下回ると、この過程は終わりを迎える。ハドロン(プロトン、中性子)が安定し、次の「光子時代」に移行する。宇宙背景放射の観測やニュートリノ検出器のデータによって、この過程の研究が進んでいる。ここまで約1秒から10秒以内に起きる出来事(といわれている)。レプトン時代と呼ばれる。
  • 宇宙の温度は約10の9乗ケルビンから約3000ケルビンに低下する。光子、電子、陽子が相互作用し、プラズマ状態を形成する。高エネルギーの光子が電子を散乱し、自由に進むことができない状態になる。この過程の初期には、ビッグバン核合成が進行し、軽い元素(主に水素とヘリウム)が形成される。この期間に、現在の宇宙に存在するヘリウムのほとんどが生成される。宇宙の膨張と冷却が進むにつれて、電子と陽子が結合して中性水素原子を形成し始める。これにより、光子が電子によって散乱されることなく自由に進むことができるようになる(再結合)。「再結合」と呼ばれるこの状態が進むと、宇宙は光子に対して透明になる。この時期に放出された光子は、現在の宇宙背景放射として観測される。宇宙背景放射は、再結合期に放出された光子が現在まで到達したもので、宇宙の初期状態を反映している。宇宙背景放射の微小な温度揺らぎは、初期宇宙の密度揺らぎを反映し、後の銀河や星の形成の素となる。再結合が完了し、光子時代が終了。宇宙は次の「暗黒時代」に移行する。ここまで約10秒から38万年以内に起きる出来事(といわれている)。光子時代と呼ばれる。

ここまでの一連の流れが「宇宙の成長」に相当する段階である2。最初は自らの成長に使っていたエネルギーを貯蔵に回し、生殖に備える。成長速度が徐々に減少する。

  • 宇宙の温度はこの期間に約3000ケルビンから数ケルビンまで低下する。再結合が完了したので、宇宙には中性水素とヘリウムのガスが存在する。光子は自由に進むことができるが、光を放つ天体が存在しないため、宇宙は暗黒状態。宇宙の膨張が続き、温度がさらに低下。中性ガスが徐々に冷却し、重力の影響でガス雲が形成される。初期の密度揺らぎが重力によって増幅され、ガス雲が凝縮。これらのガス雲が後に恒星や銀河を形成する素となる。「暗黒物質」が重力を通じて通常の物質と相互作用し、ガス雲の形成を助ける。暗黒物質の分布が、後の銀河や銀河団の形成に影響を与える。約5億年後、最初の恒星たちが形成され、光を放ち始める。これが暗黒時代の終わりを告げると同時に、再電離時代の始まりとなる。暗黒時代は直接観測することが困難だが、現在の銀河や星団の分布からその影響を推測できる。望遠鏡や観測装置の技術進歩によって、暗黒時代の詳細な研究が進む。ここまで約38万年から5億年以内に起きる出来事(といわれている)。暗黒時代と呼ばれる。
  • 宇宙の温度は数十ケルビンから徐々に低下する。重力のガス雲凝縮によって形成された最初の恒星たちは非常に大質量で高温で、大量の紫外線光子を放出する。これらの星は、短命で超新星爆発を起こし、重元素を宇宙に拡散した。最初の恒星や銀河からの紫外線光子が中性水素を電離し始める。中性水素原子が電離されることで、自由電子とプロトンに分解。再電離が局所的に進行し、次第に宇宙全体に広がる。クエーサー(活動的な銀河核)も再電離の重要な光源となる。クエーサーから放出される強力な放射が周囲のガスを電離する。再電離は不均一に進行し、最初は局所的な電離領域が形成される。これら複数の電離領域が成長し、最終的に融合して、宇宙全体が再電離される。再電離により、宇宙は高エネルギーの光子に対して透明になる。これにより、光が長距離を自由に伝播できるようになる。再電離時代の終わりは、遠方の銀河やクエーサーの光を観測することで推測できる。宇宙背景放射の偏光測定も再電離の進行に関する情報を提供する。約10億年後、宇宙の大部分の中性水素が再電離され、再電離時代が終了。光子が中性水素を電離する過程で放出されたエネルギーによって温度が一時的に上昇。この後、宇宙は現在の星形成と銀河進化の時代に移行する。ここまで約5億年から10億年以内に起きる出来事(といわれている)。再電離時代と呼ばれる。
  • 宇宙の温度は数千ケルビンから数百ケルビンに低下。再電離が進行した後、ガスの冷却が進み、星形成が活発化する。重力によってガス雲が集まり、最初の銀河が形成される。初期の銀河が互いに引き寄せ合い、衝突・合体を繰り返すことで、より大きな銀河が形成される。この過程は、銀河の形態や構造に大きな影響を与える。例えば、楕円銀河は主に銀河の合体によって形成されると考えられている。銀河は、その形態に基づいて分類される(ハッブル分類)。主な形態には、渦巻銀河、楕円銀河、不規則銀河が含まれる。銀河は重力によってさらに大きな構造(銀河団や超銀河団)を形成。宇宙の大規模構造は、銀河団がネットワーク状に配列して形成される。小さな構造が徐々に集まり、より大きな構造を形成する「階層的構造形成」の過程が進行。暗黒物質(ダークマター)の重力的な影響がこの過程に大きく寄与している。銀河内での星形成活動が続き、新たな星が誕生し、銀河の進化を促進。星形成活動が活発になり、局所的な温度上昇が見られる。恒星内部や超新星爆発などの局所的な高温現象も発生。宇宙の膨張が続くことで、全体の温度は徐々に低下。星形成率は宇宙の初期にピークを迎え、その後徐々に減少。宇宙は現在も加速膨張しており、暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の影響が考えられている。加速膨張は銀河や銀河団の距離が広がり、宇宙の大規模構造に影響を与える。ここまで約10億年から数十億年までに起きる出来事(といわれている)。銀河形成時代と呼ばれる。ここに、太陽系の形成や、地球の形成が含まれる。
  • 現在、宇宙の温度は約2.7ケルビン。観測した宇宙背景放射の温度から計測。局所的な温度(例えば、銀河内部や星の温度)は非常に高くなることがあるが、宇宙全体としては冷却が進んでいる。
  • 未来、宇宙がどう発達していくのか、様々な予想が立てられている。

ここまでの一連の流れが「宇宙の成熟と結実」に相当する段階である3。完全に成長し、繁殖の準備が整う。花が咲き、果実が形成される。エネルギーは集中的にそちらへ配分される。全体の代謝活動が安定する。一部に老化も見られる。

渦巻銀河

植物を理解することは宇宙を理解すること

ドーナツとマグカップを同じ構造と捉えるように、トポロジカルに見れば、銀河は宇宙の花である。恒星から放たれる光は宇宙の花の色を表す。宇宙の花の中心に宇宙の果実が形成され、その中に新しい宇宙の種が生まれる。宇宙誕生からの歴史を探究すれば、そのように大胆な予想を立てて遊ぶこともできる。

銀河の中心には、超大質量ブラックホールがあるという。銀河の中心は、恒星の密度が非常に高い領域で、多くの星団や古い星が存在する。中心部では新しい星が活発に形成される。銀河の中心部には多量のガスと塵が存在し、これらが星形成の材料となっている。一部の銀河の中心には、活動銀河核と呼ばれる非常に明るい領域があり、これはブラックホールが大量の物質を吸い込むことで強い放射を放つためと考えられている…。「宇宙の果実」とは何を指すのだろうか? 「宇宙の種」が存在するとしたら、多種多様な宇宙も存在するのだろうか? 宇宙は神秘に満ち溢れている。

宇宙の発達は非同時的である。あちらでは渦巻銀河が、こちらでは楕円銀河が、あっちには若い恒星もいれば、こっちには赤色巨星が、という具合に。それは植物がひとつの身体の中に、あちらでは満開の花びらが、こちらでは蕾が、あっちは白になっていて、こっちはオレンジ色になっているね、という具合に、様々な「時間を含む幾何学パターン」を見せてくれることと同じである。

宇宙と植物が同じような構造をしていて、同じような発達過程を経て、同じように発達すると言ったら、多くの物理学者は笑うかもしれない。「神はサイコロを振らない」と言ったアインシュタインなら同意してくれるかもしれないが、宇宙のフラクタル性を想うと、私たち人類が見えるスケールで宇宙の化身が現れていても全然おかしくないというか、むしろ当たり前に思えてくる。宇宙だけがずっと抽象的な概念で在り続けることのほうがよっぽど奇妙だと思う。

直観と美によって宇宙を捉える

心の重要性を数学を使って理解しているわけではないように、宇宙はこのように私たちの目の前に実際に現れて触れられる奇跡的な出来事として、「数学的」にではなく「感覚的」に、直観と美によって理解できるはずだ。バックミンスター・フラーによれば、この宇宙は「角度」と「振動数」で説明ができる。例えば、光子(フォトン)の角度でエネルギーの広がりを表せる。振動数でエネルギーの大きさを表せる。色も表せる。

ホームランを打ちたい野球選手が打球角度を気にするように、光速の球としての光子は角度によって到達点が大きく変化する。その光速の球を打つことを想像してみる。バットによって軌道が変わる。真に当たれば球が来た方向に跳ね返ってくる。打ち損じればファールになる。変化が大きければキャッチャーが後ろに逸らす。球がよく見えないからと審判さんが特殊なサングラスをかける。これらはそれぞれ反射や屈折、回折、偏光に対応する。

キャッチするとき、素手で捕球すると、とてつもない衝撃が生じるが、グローブがあれば、安全に衝撃をいなすことができる。葉緑体シティーのチラコイド球場で外野手クロロフィルが太陽の光エネルギーをキャッチし、捕らえたボールを内野手に投げる。エネルギーは複数の選手を経由して、こどもエネルギー教室に使うために貯められる。そのファインプレーは多くの観客に活力を与える。これが植物の葉緑体が行っている光合成の仕組みである。

葉緑体シティーのチラコイド球場で外野手クロロフィルが太陽の光エネルギーをキャッチするところ

そして地球の生命の歴史がはじまる

「光合成しようぜ!」と、133億年に1人の名もなき天才外野手がある生物の全細胞内の小器官にグローブを送ったところから地球の生命の歴史は始まった。今から15億年ほど昔の出来事である。


Footnotes

  1. これはポリマスリサーチ独自の宇宙発達分類である。2024年6月現在、現代物理学および現代宇宙論にこのような捉え方は存在しない。

  2. 脚注1同様、これはポリマスリサーチ独自の宇宙発達分類である。

  3. 脚注1と2同様、これはポリマスリサーチ独自の宇宙発達分類である。