森が貧しくなっている
熊が人里に下りてくるのは生息数が増えたためではなく、山で食糧が手に入らなくなったためである。
そもそも熊の繁殖力は高くない。哺乳類の中では、増えるスピードはかなり遅い。ツキノワグマの性成熟は約3〜5年かかり、出産間隔は通常2年〜3年に1度、一度の出産で1〜2頭(まれに3頭)生む。子育て中は次の繁殖をしない。そして、子が成獣まで生きる確率は限定的。ネズミのように個体数が急増するようなr戦略動物ではなく、K戦略動物である。
「生息数が増えたから人里における出没や人間への被害が増えた」と言っている専門家は基本的な論理ができていない。豊富な食糧があったとしても、放置された里山があったとしても、熊の生態的に急速に個体数が増えることはない。単に、出現頻度が増えているだけである。では、なぜ出現頻度が増えているのだろうか?
川を見れば山の状態がわかる
必要なアクションは、熊の個体数把握ではなく、熊の主食となる木の実を提供している広葉樹(ブナやコナラなど)の分布拡大と量確保である。把握すべきは、熊に十分な食糧を供給できているかどうか、つまり現在のブナ林などの状態である。根本的に原因推定を誤っている。
かんたんに山の状態を把握する方法がある。それは川を見ることである。川は山に降った雨が海に帰る過程そのものである。山に問題があれば、川に症状が表れる。
山にブナ林がないために、川の水は枯れかかっている。雨後の水は濁っている。山が貯水できないためによく氾濫する。川の生きものも減っている。アユもウナギも減り、鮭も採れないような「豊かな山」で、熊たちはどう生きていくのだろうか? 食うに困った熊が山を下りるのも必然的である。
熊が出没するのは森が貧しくなったから
昭和の拡大造林で針葉樹の乱植が行われるまでは、山はブナをはじめとする広葉樹で覆われていた。熊の主食はブナの木の実である。稲という草の実を主食とするヒトと同じく熊にも主として好む食べ物がある。熊は木の実を食し、広葉樹の拡大と調整を助ける。
広葉樹がなければ森は成り立たず、山は水を貯められず、多くの生き物を養えない。森が貧しくなれば水が減り、川が貧しくなり、海は磯焼けする。

